あの日がそろそろやってくる――。
気が早いときには8月上旬の時もあったが、10月下旬までずれ込んだこともある。わたしたちに冬の訪れを告げてくれる、富士山(3776メートル)の初冠雪だ。
山頂から約40キロ
富士山の初冠雪は、山梨県にある甲府地方気象台(甲府市)の職員が、目視で観測するという重責を担っているが、観測の歴史は古い。
日清戦争が始まった1894年、甲府地方気象台の前身である県立甲府測候所の創立とともに始まった。
長い歴史のなかで、最も早い初冠雪は2008年の8月9日で、最も遅い記録は1955年と2016年の10月26日。昨年は10月5日だった。
初雪が降っただけでは初冠雪とはならない。
山の全部か一部が、積雪などで白色に覆われて見える状態を甲府地方気象台から初めて確認できて初冠雪となる。
つまり、富士山頂から約40キロ離れた甲府地方気象台から職員が目視で富士山頂を見て、雪化粧したかどうか確認するのだ。
また、初冠雪には観測の起点となる日も関係する。
富士山頂の富士山特別地域気象観測所(旧富士山測候所)の観測で、日平均気温(1日を通じた平均気温)が最高値を記録した日より後と定められている。
少々わかりにくいが、「真夏のピーク」を記録した日(今年は8月3日の11.2度)が去ってから、初めて雪化粧した日が初冠雪となるのだ。
実際に21年の初冠雪は、一度は9月7日と発表されたものの、その後に日平均気温の最高値が更新されたため、9月26日に訂正された。
雪はあるのに発表がない
「ふもとから雪が見えるのに、初冠雪の発表がないのはおかしいじゃないか」
富士山麓(さんろく)に広がる山梨県富士吉田市の舟久保大祐・富士山課課長補佐によると、市役所にはこうしたクレームがたびたび寄せられてきた。
静岡県側や富士山のふもとの市町村から山頂の積雪が確認できても、甲府地方気象台から目視で、雲がかかっているなどして確認できなければ、初冠雪とはならないためだ。
では、なぜ山梨県側の甲府市で観測を続けているのだろうか。
静岡地方気象台の観測予報グループ、市川信介・予報官によると、山梨県の「河口湖特別地域気象観測所」(富士河口湖町)と、静岡県の「三島特別地域気象観測所」(三島市)でも有人観測を実施していた時期もあったが、人員削減などを理由に、三島が01年、河口湖が02年にそれぞれ観測を終了した。
市川さんは興味深いデータを教えてくれた。
三島特別地域気象観測所が観測を開始した1960年の記録をみると、甲府地方気象台の初冠雪確認は9月26日だったのに対し、三島では10月24日で、1カ月ほどもずれがあったという。
市川さんは「甲府地方気象台から見える富士山北側と、三島特別地域気象観測所から見えた富士山南側の気象条件が同じではなく、雪化粧の見え方が異なるため」と説明した。
さまざまな理由があって、甲府地方気象台での観測が続いているようだ。
だが、クレームが寄せられる富士吉田市役所としては「なるほどね」と、座視しているわけにはいかなかったようだ。
市では06年から「富士山初雪化粧宣言」を独自に公表している。
冬を知らせる初冠雪 全国44カ所で
気象庁が初冠雪を観測する山は富士山だけではない。
気象庁報道係の野村優真さんによると、気象庁では富士山を含めて、北は北海道の利尻山(1721メートル)から、南は鹿児島県の桜島(1117メートル)まで、計44山の初冠雪を観測しているという。【杉田寿子】
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