自民党の派閥裏金事件に関係した議員の処分を審査する党紀委員会=4日午後、東京・永田町の党本部

「球聖」と呼ばれるボビー・ジョーンズ(1902~71年)は、生涯アマチュアで通し、1930年、28歳の時に、当時の4大タイトルである全英、全米の両オープンと、全英、全米の両アマを制して年間グランドスラムを達成した、不世出のゴルファーである。

引退後、出身地の米ジョージア州アトランタに理想とするゴルフ場を造った。そのオーガスタ・ナショナルゴルフクラブで11日から「ゴルフの祭典」マスターズ・トーナメントが開催される。

有名なエピソードがある。1925年の全米オープンで、第1打をラフに入れ、4打でそのホールを終えたかに見えた。ところが、ラフでアドレスした後にボールが少し動いたと自ら申告し、1打罰を加えてスコアを5打とした。結局、この1打でプレーオフに持ち込まれ、優勝を逃した。

フェアプレーをたたえる声を制して、彼はこう言った。「当たり前のことをしただけです。泥棒をしなかったからといって、褒められるでしょうか」

ゴルフは自己判定、自己申告のスポーツである。基本となるルールは「自分に有利に振る舞ってはならない」。政治家にもゴルファーは多いだろうが、球聖の爪の垢(あか)を煎じて飲ませたい。

派閥パーティー収入不記載事件で、自民党は関係議員ら39人を処分した。安倍派の幹部2人が「除名」に次いで重い「離党勧告」に、3人が「党員資格停止」となった。

これで幕引きにしたいようだが、どうも釈然としない。安倍晋三元首相が廃止を指示したキックバックが、どうして復活したのか。政治資金収支報告書に記載せずに、何に使ったのか…。実態が解明されていないからだ。

「会計責任者に任せていた」「知らなかった」「記憶にない」などと逃げ回るばかりで、誰も説明責任を果たさない。政治責任を重く受け止めると言うが、ならば議員辞職すべきなのに辞めない。二階俊博元幹事長は不出馬表明で処分から除外されたが、息子を後継者にするのでは責任を取ったとは言えまい。

そうした無責任のオンパレードが政治不信を招いた最大の要因である。党籍離脱や党員資格停止で、公認や支援を得られなくても、当選したら「禊(みそぎ)を済ませた」と復党するに違いない。今回の処分が厳しいとは感じないし、納得もできない。次の選挙では痛い目にあわせてやろうと思っている有権者も多いだろう。

ボビー・ジョーンズの名言がある。「卑しきシングルより、正直なるダッファーたれ」

シングルは上級者の腕前、ダッファーは下手なゴルファーである。長く自民1強が続いて、数の驕(おご)りでルールをねじ曲げたり、スコアをごまかしていないか、胸に手を当ててみるがいい。(元特別記者 鹿間孝一)

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