8日、発表された検事総長談話

袴田巌さん(88)の再審で控訴断念を表明した畝本直美検事総長は8日に発表した談話で、無罪判決確定までに長期間かかったことに対し謝罪の意思を示した。一方、捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)を認定した静岡地裁判決に対し「強い不満を抱かざるを得ない」と述べ、不信感をにじませた。

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控訴期限の10日を待たず畝本総長は控訴しない方針を表明した。理由について「袴田さんが結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、控訴するのは相当ではないとの判断に至った」と説明し、「刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思う」とした。

ただ、総長談話で最も文量を割いたのは9月26日の静岡地裁判決に対する評価だ。

再審では確定判決で犯行時の着衣とされた「5点の衣類」が大きな争点となった。事件から約1年2カ月後に現場近くの工場のみそタンクから見つかったものだ。検察側は付着した血痕は事件から時間が経過しても赤みが残り、袴田さんのものであることは揺らがないと主張し続けた。

判決は弁護側の主張に沿ったものになった。実験結果などを踏まえ、仮に事件発生時に袴田さんが隠したものだとした場合、見つかった時点で赤みが残ることはないと認定。捜査機関によって捏造された証拠だと断じた。

畝本総長は談話で「血痕の赤みが消失することは科学的に説明できない」とした多くの科学者の声に十分な検討を加えていないと指摘。衣類が見つかったみそタンクの環境を巡り「醸造について専門性のない科学者の一見解に依拠」して赤みが残らないとした判決に「大きな疑念を抱かざるを得ない」と批判した。

捏造との指摘に対しても「何ら具体的な証拠や根拠が示されていない」と反論した。「理由で示された事実には客観的に明らかな時系列や証拠関係と明白に矛盾する内容も含まれている。強い不満を抱かざるを得ない」と不信感を隠さなかった。

「判決は理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われる」。談話は最後まで控訴を検討していたことを示唆しつつ、事件から58年たっていることを踏まえ「袴田さんを法的に不安定な地位に置き続けるのは適当ではない」と結論づけた。

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