鹿児島県・奄美群島の一つ、喜界(きかい)島の海岸で、隆起したサンゴ礁に埋まっていた石器が切り取られて、なくなっていることが喜界町教育委員会への取材で判明した。石器は縄文時代のものと推定され、海中に落ちてサンゴと一体化し、隆起して地上に現れたと考えられている。町教委の担当者は「島の隆起が実感できる貴重な情報源。二度とこんなことが起きてほしくない」と話している。
喜界島は奄美大島の東約25キロに浮かぶ。約10万年前にサンゴ礁が隆起してできた島で、その後も平均すると年約2ミリの速度で隆起してきた。階段状のサンゴ礁段丘があり、その地質は国際的にも注目されている。
サンゴ礁に埋まった石器は島内7カ所の海岸で確認されている。島では縄文時代の遺跡が見つかっており、暮らしていた縄文人が使っていたものが海中に落ち、その後に隆起したため、サンゴ礁に埋まった形になったと考えられる。
切り取られた石器はそのうちの1カ所で、島の西側の坂嶺海岸にあった。握りこぶし程度の大きさで丸みを帯び、周囲の石灰岩と異なり、赤みがかっていた。木の実などをすりつぶしたり割ったりする際に、「すり石」や「たたき石」として使われていたとみられる。
3月、町教委埋蔵文化財センターの松原信之主査が見学希望者を案内するために海岸を訪れた際、石器が切り取られて、なくなっているのに気づいた。サンゴ礁と石器は固くくっついていたため、何者かが工具などを使って切り出した可能性が高い。
町教委によると、こうした石器の存在は2005年に研究者が初めて指摘し、坂嶺海岸でも19年に発見された。島内で点々と見つかり、全体の規模をつかみきれないため、文化財登録に向けた動きは現時点ではなく、石器の周囲にも柵などは設置していない。
今回の事態に、町教委は「将来的には保護が必要だ」と危機感を強め、石器分布の全体像を把握するため、島民に「海岸でサンゴ以外の石が埋まっているのを見つけた方は、埋蔵文化財センターまで連絡を」と呼び掛け始めた。松原主査は「サンゴ礁の隆起だけでなく、石器を通じて縄文時代の人々の活動を知ることもできる。安易に切り出すなど絶対にしてほしくない」と話している。【梅山崇】
国民共有の「文化財」
橋本達也・鹿児島大総合研究博物館教授(考古学)の話 石器は喜界島ならではの貴重な資料だ。実物が施設で展示されているのではなく、海岸にあるからこそ島の歴史を知ることができる。だが、オープンな場所にある石器を監視することは難しいだろう。国民共有の「文化財」として守り、学びに生かすという意識を広めていくことが大事だ。
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