2018年に「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)に覚醒剤を摂取させ殺害したとして、殺人罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判で和歌山地裁は12日、判決を言い渡す。

検察側は遺産目的で完全犯罪を企てたとし、命や財産が奪われた結果は重大だとして無期懲役を求刑。対する被告側は「殺していない」「覚醒剤は野崎さんが自分で飲んだ可能性がある」などと全面無罪を主張した。犯行に結び付く直接証拠はなく、被告が殺害したのかどうかや事件性の有無を裁判員らがどう判断するかが注目される。

起訴状などによると、被告は18年5月24日、何らかの方法で野崎さんに致死量の覚醒剤を摂取させ殺害したとしている。死因は急性覚醒剤中毒で口から飲んだとされる。

裁判で検察側は、被告が事件前に「覚醒剤 過剰摂取」「老人 完全犯罪」などとウェブで検索し、自ら密売人と接触し覚醒剤を入手したと指摘。事件当時、被告は野崎さんと自宅で2人きりで「摂取させる機会は十分にあった」と述べた。

野崎さんは死んだ愛犬のお別れ会などを事件の日より後に予定し、誤飲や自殺の可能性もないとした。

一方、被告は被告人質問で、18年4月ごろに野崎さんから「覚醒剤を買ってほしい」と頼まれたと述べ、密売人から買った白い塊入りの封筒を野崎さんに渡したと供述。その後、野崎さんから「あれ使いものにならん。偽物や。もうおまえには頼まん」と言われたとしている。

ウェブの検索履歴については「昔から猟奇事件とかサイコパスなものが好きで調べた」と説明した。

裁判では野崎さんの会社の元従業員や知人、薬物の密売人ら28人の証人尋問も実施。複数が野崎さんは覚醒剤に否定的で、薬物の使用や所持も見たことがないと証言した。

一方、尋問された密売人2人のうち、1人は被告に本物の覚醒剤を売ったと話したが、もう1人は「覚醒剤ではなく氷砂糖だった」と述べ、覚醒剤の入手経緯を巡り食い違いも見られた。

ある捜査関係者は「被告が覚醒剤を手に入れようとしていたことは間違いない」と指摘。被告の供述に一定の合理性があったとしても、信用性がどう判断されるかが焦点になるとみている。

弁護側は「薄い灰色をいくら重ねても黒にはならない」と訴え、犯人だと断定するのに疑問が残る場合は無罪にするべきだと主張している。〔共同〕

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