盛岡市動物公園「ZOOMO(ズーモ)」の2023年度の入園者数が22年ぶりに20万人を超えた。89年の開園以来、入園者数は600万人を突破し、2日には記念のセレモニーもあった。動物園が来客をひきつけるものとは。
客足回復の足がかりになったのは、約1年半休園しながら進めたリニューアルだ。園内の環境を改善させるだけでなく、自然と共生するという理念を形にすることを重視した。
「こんなに近くに寄れるなんて」
4月末、カンガルーの暮らすエリアで、盛岡市内から家族4人で訪れていた女性会社員(43)が声を上げた。改装前には外から眺めるだけだった柵の中に入れる展示に感銘を受けた様子だった。
園内を歩き、目を引くのは動物たちとの距離感だ。運営する株式会社「もりおかパークマネジメント」企画営業広報の森敦子チームリーダーは「すごく近くなって『見やすくなった』『また来たくなる』と評価をいただいています」と胸を張る。
園は89年4月に開園し、初年度は26万人超が入場した。その2年後にはアフリカ園が開園し、アフリカゾウやキリンなどが人気を集めた。しかし勢いは次第に失われた。01年度を最後に年度ごとの入園者数は20万人を下回るようになり、近年は約15万人まで落ち込んだ。
設備の老朽化は進み、少子化も進む。盛岡市が100%出資して運営にあたっていた公益財団法人は解散。市が49%、民間が50%超を出資し、2019年に設立されたもりおかパークマネジメントが運営を引き継いだ。
21年9月末から23年春にかけてのリニューアルに伴う休園中に求められたのが、園の魅力を高めることだ。
園内にほとんど設置されていなかったベンチを大幅に増やし、ゆったり見学できるようにしたり、案内表示を充実させたりして利便性を向上。柵を隔てて遠い場所から見学するしかなかった動物との距離も近づけた。
さらに森さんはこう語る。「運営を引き継いだ時に全員で話し合って決めた理念があります」
それが「ワンワールド・ワンヘルス」という理念だ。「人、動物、環境(生態系)の健康は相互に関連していてひとつである」という意味で、自然環境を大切にする考えを表している。
園内では、飼育する動物が誕生した時だけでなく、病気にかかったり、死んだりした場合も看板を掲げて紹介する。従来は積極的な公開は控える情報だったが「命について伝える動物園としてはそれは違う」(森さん)と考え、発信することに決めたものだ。
そんな姿勢が伝わり、企業との新たな連携も動き始めている。おみやげとしておなじみの銘菓「かもめの玉子」で知られるさいとう製菓(岩手県大船渡市)が、寄付付き商品の販売を園内で始めた。
購入すればその寄付分が、園内で飼育するニホンイヌワシの環境整備に役立てられるというもの。絶滅危惧種のニホンイヌワシを大切にする姿勢が企業側に伝わり、連携の実現につながったという。
しかし課題も残されている。例えば古くなった園内の動物病院の建て替えだ。現在は来園者に公開していない動物病院を見せるようにし「命と向き合う現場を伝えたい」(森さん)という展望を持つが、資金は不足している。
資金調達を担うのは、施設を所有する盛岡市だ。20年から企業版ふるさと納税などを活用して資金を募るが、必要な約1億2000万円のうち集まったのは1000万円程度にとどまる。不足の解消は容易ではないが、今後も寄付を募って調達を目指すという。【釣田祐喜】
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