米テスラ社製産業用蓄電池パワーパック(写真=IIJ提供)

高さ2メートルほどの白い筐体(きょうたい)の上部に、大きく入る「TESLA(テスラ)」のロゴ。リチウムイオン2次電池(LIB)を使う米テスラ社製産業用蓄電池Powerpack(パワーパック)だ。

通信大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)は2019年、千葉県白井市のデータセンター(DC)にパワーパックを導入した。目的の1つが、空調に使う消費電力の抑制だ。

DCでは莫大な電力を使う。夏の日中は特に、大量の機器を動かすだけでなく、その発熱を抑えるため、空調にも多額の電気代がかかる。IIJの堤優介データセンター基盤技術課長は「全社で排出する二酸化炭素(CO2)や消費エネルギーの8割がDC由来だ」と説明する。

そこでIIJは、割安な夜間に購入した電気をためておき、昼間に使うためパワーパックを導入した。20年8月の検証では、電力会社から供給される電力量を最大10.8%抑えられたという。テスラ社製を選んだのも、電力制御がしやすかった点が決め手だった。

IIJの白井データセンターキャンパス。屋根の部分には太陽光発電用のパネルが並ぶ。こうした再生可能エネルギーを安定的に使うために蓄電池は不可欠だ(写真=IIJ提供)

ただLIBは、鉛蓄電池などに比べて導入コストが高い。そのためIIJは、LIBを、停電時に電力供給を確保するためのUPS(無停電電源装置)としても活用できるようにして、投資対効果の向上を狙った。

DCにとって電力は命綱だ。停電が起きた時、非常用発電機が稼働するまでの数分間さえ、電力供給は止められない。UPSはその時間をカバーするための電源となる。

従来、DCではUPSに鉛蓄電池を使うことが一般的だった。しかしLIBの方が、エネルギー密度が高く省スペース化が期待できる。米調査会社フロスト・アンド・サリバンによれば、LIBは鉛蓄電池に比べて70%、軽量・小型化できるという。さらに耐用年数も鉛蓄電池の2倍に当たる15年間ほどと長く、交換頻度も抑えられる。IIJが15年間の運用期間を通じた総コストを試算した結果、節電効果分も含めると鉛蓄電池と同程度だったという。

IIJはそうした点も踏まえて、LIB導入に踏み切った。空調用UPSであれば、サーバーなどの機器向けのUPSに比べて比較的設置条件が緩く、LIB導入しやすい点も後押しとなった。

今後、再生可能エネルギーが普及することを見据え、IIJはLIBの蓄電能力を電力の需給調整に活用することで収入を得ることも狙っている。23年度からは、関西電力が主導する仮想発電所(VPP、バーチャルパワープラント)構想にも参画し商用展開を始めた。15年間の運用期間中に、LIB導入にかかった投資額の約4割に相当する報酬を得られる見込みだという。

IIJは現在、白井市のDCで1棟にLIBを導入しており、24年度中をめどに2棟目にも導入予定だ。今後3棟目を増築すれば、同じ仕組みの導入を検討したいと意気込む。

導入費用の高さが課題のLIBだが、価格は少しずつ下がってきている。市場調査会社の富士経済(東京・中央)は、UPSやESS(電力貯蔵システム)、BTS(携帯電話基地局)などの用途に使うLIBの平均価格が25年に1ワット時当たり19.2円と、20年比8%減になると予測する。

NTTグループのDC事業を統括するNTTグローバルデータセンター(東京・千代田)は「以前は価格面で鉛蓄電池一択だった。だがLIBの価格は低減が進み、鉛蓄電池に迫ってきている」と見る。同グループは、NTTコミュニケーションズが展開する川崎市内のDCで既にLIBを空調用UPSとして導入しているほか、千葉県に持つDCへも導入を検討中だ。

世界に目を向けると、LIBは今後DCへの活用が増えていくと見られている。フロスト・アンド・サリバンの調査によれば、DCで使われるLIBの市場規模は、30年には7億8100万米ドル(約1180億円)に膨らみ、23年比で3倍以上になるという。また、DCで使われる電池全体の市場に占めるLIBの割合は、23年には2割程度だが、30年には4割に、35年には過半数に達すると見込まれている。

ただ日本では現状、「DCにLIBを導入した事例は少ない」(国内事業者)。その壁の一つが、法規制だ。

規制緩和の動きも普及を後押し

例えばLIBのセルに含まれる電解液は燃えやすく、消防法では石油や灯油などと同じく危険物に指定されている。一定の設置容量を超えると、消火設備を追加する必要などがあり、設計や建築のコストがかさむ。業界団体は「設置する事業者からすれば費用増加の要因になっており、足かせになっている。必要以上に厳しいルール下では設置は進まない」と反発する。国内外でDCを展開する米国の事業者からも「日本はLIBの法規制が厳しい、珍しい市場だ」という声が漏れる。

ただLIBの普及を受け、規制緩和の動きも出てきた。23年6月に政府がまとめた規制改革の実施計画には、「リチウムイオン蓄電池の普及拡大に向けた消防法の見直し」という項目が盛り込まれ、議論が重ねられてきた。23年9月には、LIBなどを扱う施設の周囲の保有空地や消火設備に関する規則が緩和された。

総務省消防庁の「リチウムイオン蓄電池に係る危険物規制に関する検討会」で委員を務める小林恭一東京理科大学教授は「何十年も前に設けられた基準は、当時の技術が前提にされており、今の技術とは合わない」と指摘する。安全性への配慮は必要だが、技術の進歩に合わせて規制を改定することが不可欠となる。

データ容量が膨張し、消費電力も増大していくDC。スペースの効率的な使用や再生エネルギー活用が求められる中、少しずつLIBを導入しやすい環境が整えられつつある。

(日経ビジネス 中西舞子)

[日経ビジネス電子版 2024年3月28日の記事を再構成]

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