京都大学の柳田素子教授らは急性の腎障害の悪化に、腎臓の細胞内にあるミトコンドリアの異常が関わることを突き止めた。ミトコンドリアが細かい断片になり、細胞の構造が保てない状態につながっていた。腎臓病の重症化を抑える治療薬の開発につなげる。
腎臓は体内を循環する血液から、老廃物などを取り除いて尿を作る役割を担う。急性腎障害は腎臓の機能が急激に低下する病気で、排出すべき老廃物が次第に体内に蓄積する。慢性化する場合があり、症状が重いと透析が必要となる。入院患者の約3%で発症するとされ、近年では高齢化などで発症者数が増加傾向にあるというが、根本的な治療法は無い。
発症後に回復する場合もあれば、慢性化して悪化する患者もいることが知られる。研究チームは過去に、腎障害を発症した際に、生命のエネルギー源である「アデノシン三リン酸(ATP)」が腎臓で不足すると、病気の慢性化につながる一端を担うことを見いだしていた。
研究チームは腎臓のなかでも、これまで解析されていなかった「糸球体」と呼ばれる組織に着目してATPの影響を解析した。糸球体は血液中の老廃物や塩分をろ過する。腎障害を発症するマウスを解析したところ、腎障害でATPが不足した状態が長くつづくにつれ、糸球体の特定の細胞内にあるミトコンドリアが細かい断片になり、細胞の変形が起きていた。
ミトコンドリアはATPを合成する役割を担うが、断片化になることでATPの供給量が減少し、細胞の形状を保つ機能の異常につながっていた。ミトコンドリアの断片化を防ぐ薬剤を投与したところ、断片化や糸球体の細胞の変形を軽減できた。
今後は急性腎障害の患者から採取した組織などを調べ、ヒトでも同じ現象が起きるか確認する。研究を進め、患者の発症後に重症化を防ぐ治療薬の開発につなげる。研究成果をまとめた論文は英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。
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