高級車のシートはたいてい本革だ。本革は「高いクルマに乗ってるなー」という満足感があるが、はたしていいことばかりなのだろうか。「1周まわってやっぱ布シートがいい」ってことはないものなのかねえ?
文:ベストカーWeb編集部/写真:Adobestock、ロールスロイス、ベストカーWeb編集部
■革シートは使用人のための椅子だった!?
歴史をさかのぼって馬車時代、身分の高い人は布シートに座った。馬車のオーナーやゲストが座る客室内は雨の心配がないから、ぜいたくな毛織物などが素材に使われたのだ。
いっぽう客室の外で馬を操る御者は革シートに座った。雨が降ればびしょ濡れになるから、水に強い革が選ばれたというわけ。
この価値観はクルマにも引き継がれる。屋根が開くオープンカーは革シートを使うことが多かったし、高級車、たとえばトヨタ センチュリーなどは、その歴史の大半でウールファブリックこそがぜいたくという考え方だった。
この考えが逆転し始めるのは、第2次大戦以降だろうか。石油から圧倒的に安くて丈夫な化学繊維が作られるいっぽう、素材やなめし技術の進化などによって、布のようにしなやかな革が手に入るようになった。その結果、「布=普及品」「皮=高級品」という図式が出来上がったのだ。
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■高級感以外にも革シートにはメリットが
というわけで、いまやアル/ヴェルもランクルも本革シートこそが高級の証というわけだが、高級感以外にも本革のメリットはある。
冒頭から述べている耐水性はやはりその最大の要素だろう。飲み物をこぼしたとき、拭くだけできれいになる点は実にありがたい。ちなみにLCCなどの飛行機のシートは本革が多いが、これも掃除が簡単にできるということが理由だ。
もう一つは、ホコリやばい菌などを吸いにくいという点。とりわけアトピーやぜんそくなどに悩む人たちは、これが本革シートを積極的に選ぶ理由ともなるはずだ。
「革シートは蒸れる」という声も多いが、最近はパンチング(穴あき)レザー+ベンチレーションという仕組みで、この欠点を解消する動きもみられる。筆者も経験したことがあるが、短パンを履いていても膝裏に汗をかかず、実に心地よかった。
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■今後は合成皮革の時代か?
そんな本革シートだが、今後も高級素材として安泰かといわれると難しい。近年はサスティナビリティ(持続可能性)という観点から、皮革を自動車の素材にするのを止めようという動きがあるのだ。
その代表例がボルボ。2021年に「2025年以降に市販する新型車に関しては、本革を使用しない」と宣言した。その先駆けとしてコンパクトSUVのC40リチャージは、内装にリサイクルやバイオ由来の素材だけを使っており、動物福祉という観点からも環境に配慮した1台といえる。
とはいえ、本革の肌触りや高級感を求める人は今後もいるはず。となると今後は、人工レザー(エシカルレザー)の役割がますます重要になるだろう。
クルマ用の合成皮革といえば、かつてメルセデスベンツが作っていた「MBテックス」という素材が有名だったが、現在ではさらに研究が進み、もはや本物と見分けがつかないレベルに達している。
アルカンターラという人工スウェードはいまや高級品だが、これは日本の東レがイタリア企業と開発したものだ。
というわけで、本革シートへの憧れは当分終わりそうにない。合成皮革が幅を利かせるまえに、一度は本革のクルマに乗ってみたいものだ。
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