ニッパーやラジオペンチはバイクのメンテナンスでも出番が多い、握り系工具の代表選手です。それぞれ1本ずつ持っていれば事足りると思いがちですが、工具界には実に多種多様な形状と機能を持つプライヤーやニッパーが存在します。それらの中には機能や用途を絞り込むことで、特定の作業での作業効率アップや安全性向上に役立つものもあります。

  文/栗田晃  

作業者の爪、カプラーの爪のどちらにも優しいカプラー専用プライヤー

 

 

 

 

 

 

ギボシ端子やカプラー(コネクター)は、配線の接続部に用いられる代表的な電気部品です。ギボシ端子は1本の配線同士を繋ぐ際に使用し、カプラーは複数の配線をまとめて結線する部分で使われており、どちらも一度つないだら簡単に外れないことが重要です。
ギボシ端子の場合はオス/メス端子の形状により抜け止めとしているのに対して、カプラーは端子に抜け止め機能が無い代わりにカプラー自体の爪が掛かることでロックしています。

 この爪にはさまざまな形状があり、カプラーを切り離す際には構造を入念に確認することが大切です。爪を押すタイプだと思い込み力任せに押し込んでいたら、実は持ち上げるタイプで破損した、カプラー自体が2ピースまたは3ピース構造で的外れな部分を押したり引いたりするうちに壊してしまったなどといったトラブル例は少なくありません。

 もっともポピュラーな押し爪タイプのカプラーを切り離す際、どのように爪を押すかで苦労することがあります。カプラーの爪は、カプラーが簡単に抜けないためにあるのは言うまでもなく、そのため爪も簡単には押せないようになっています。また長期間に渡ってロック機構が正しく機能するため、反発力も強く設定されています。

そのくせ長い時間が経過すると樹脂自体の柔軟性が低下して、折れたり割れたりすることもあるから面倒です。
そんなカプラーの爪を押すためだけに存在するのがカプラープライヤーです。この記事で紹介するのは工具ショップのアストロプロダクツ製プライヤーですが、どのメーカーやブランドの製品も、概ね丸軸プライヤーの先端を90度曲げたような形状となっています。
カプラーの爪外しに苦労するのは、爪の面積がたいてい小さく、そこに的確に圧力を掛けなくてはならないからです。指で押そうとしてもカプラーに爪が食い込んで痛いし、指の爪で押せば爪が痛いし、ラジオペンチでは爪以外の部分を挟んでしまったりと、イライラした経験のある人も多いと思いことでしょう。そんな場面でこの工具を使用すれば「これほど使い勝手が良くなるのか!!」と驚くこと間違いありません。

細い先端部分は細い爪をピンポイントで狙うことができ、グリップを軽く握るだけで爪のロックがスッと外れる様子は快感しかありません。作業中に押している部分がしっかり見えるので、爪が押しタイプだと思ったら引きタイプだった時にも、早めに気づくことができます。
絶版車や旧車ではヘッドライトケース内が車体配線のジャンクションとなっている例が多く2P、4P、9Pなどのカプラーがひしめいていることも珍しくありません。ヘッドライトを外す際にはそれらカプラーの切り離しが必要ですが、そうした場面でこのプライヤーを使えば作業時間を確実に短縮できます。

 ラジオペンチが使い方次第でカプラーの爪押しに使えるのに対して、カプラープライヤーをラジオペンチ代わりにするのは難しく、電気メンテでしか使えないためコストパフォーマンスが良くないと判断されそうですが、作業時のタイムパフォーマンスは非常に高く、満足度の高さは疑う余地のない工具です。

     

フラット刃≠片刃?? 結束バンドの切断部が手に優しいデリケートなニッパー

 

 

 

 

ニッパーは配線や針金など、線材を切断するための工具です。バイクいじりでも電気メンテナンスを筆頭に出番が多く、工具セットに必ず入っている工具のひとつです。
そんなニッパーの用途のひとつが結束バンドの切断です。電気の配線やケーブル、ホース類をまとめるのに便利な結束バンドにはナイロン製やポリプロピレン製などがあり、四角いヘッド部分に先端を差し込み引っ張ることでロックが効き、抜けなくなります。ヘッドに通した先端はそのままでは収まりが悪いのでニッパーで切断するのが一般的です。

ハンドルスイッチ近辺にUSB電源を取り付ける際、ヘッドライトケース内やヒューズボックスまで引いた配線を結束バンドでまとめて余分をニッパーで切断した時に残った切断面が鋭利だと、手や腕に切り傷を負う原因になることもあります。
そのような作業に適しているのが、フラットヘッドニッパーです。このニッパーは通常の製品に比べて刃の厚みが少なく、ニッパー上面の表刃が平ら=フラットなのが特徴です。この形状によって切断部分の刃の残り、つまり手を傷つける恐れがある鋭い突起が小さく切断できるメリットがあります。

実際、フラット刃のニッパーを結束バンドの四角いヘッドの外側に当ててバンドを切断すると、ヘッドからの飛び出しは皆無で素手でもまったく痛くなく、安心して触れることができます。
このフラット刃のニッパーは、模型工作の世界ではとても一般的な存在として知られています。ランナーから部品を切り出す製に部品側に残るバリを少なくでき、ヤスリなどによる整形の手間を削減できるのが特賞です。
フラット刃は片刃と混同されることもありますが、前者は開口部が開いた両側に刃があるのに対して、後者は刃があるのは開口部の一方だけで対向側は平らに仕上げられておいり、両者は構造からしてまったく異なります。

 全てのニッパーがフラット刃なら切断面のバリが少なくなって良さそうなものですが、実際にはニッパーの刃は丸みを帯びたラウンド刃の方が一般的です。その理由はフラット刃よりもラウンド刃の方が厚みがあり強度も高いため、硬い素材を切断しても刃こぼれしづらい利点があるからです。裏を返せば、フラット刃のニッパーで硬い針金を切ろうとすれば、ニッパー自体を傷めるリスクがあるということです。

結束バンド切断はフラットヘッドニッパー。適材適所で最適の結果が得られる

 

 

 

 

 工具を使用する際に強度を考慮して使い分けるのは面倒だと思うかもしれません。しかしボルトやナットを締める際、多くのギヤラチェットレンチは本締めを推奨していません。またソケットレンチも過大なトルクによってラチェット機構が破損する恐れがあり、そのような場面ではメガネレンチを使用するのが正式な工具選びとなります。

何かを切断する際も同様で、硬い素材を切りたい時は刃の厚いラウンド刃のニッパーを洗濯すべきです。逆に、ナイロンやポリプロピレンといった柔らかい樹脂素材であれば、刃が薄く切断面にバリの残りが少ないフラット刃のニッパーを使用できます。
フラットヘッドニッパーの刃面を観察すると、表刃は平らで裏刃だけで切断しているかのように見えますが、実際は両面に角度があり山の頂点部分で切断しています。ラウンド刃とフラット刃ではその山の角度や刃の厚さが異なるため、フラット刃による切断面はバリが少なくなるのです。

 ただし、フラットヘッドニッパーならどんなときも切断面にバリができないわけではありません。結束バンドの切断面を滑らかにしたいなら、結束バンドの四角いヘッドに表刃を密着させて切断することが重要です。その点では使用条件を整えてやる必要もありますが、正しく使えば(工具の特徴を引き出せれば)切断部分を手のひらで擦ってもミミズ腫れができることはありません。これはラウンド刃のニッパーでは決して真似できない仕上がりです。

先に紹介したカプラープライヤーと同様、フラットヘッドニッパーも柔らかい素材専用の工具で、汎用性の高さではラウンド刃のニッパーにかないません。また作業内容によって2丁のニッパーを使い分けることに煩雑さを感じるかもしれません。
しかし結束バンドの切断部分で切り傷や擦り傷を負った経験があるなら、端部が飛び出すことのない仕上がりのありがたさが理解できることでしょう。

POINT  

 

  • ポイント1・先端部分が90度に曲げられたカプラープライヤーは、カプラーの抜け止め用ロックの爪を外すためだけの工具で、電気系メンテナンスで重宝する
  • ポイント2・ニッパーの刃はラウンド刃とフラット刃に分類でき、前者は硬い素材を切断できる強度があり後者は切断面のバリを小さくできる
  • ポイント3・フラット刃は刃の厚みが薄いため結束バンドや樹脂など柔らかい素材を切断する作業に適している

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/maintenance/426315/

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