コロナ禍さなかの2021年、グミがチューインガムの市場規模を上回った。

口にいれてかむことで気分転換できるガムとグミが明暗を分けた背景に興味を持ったのが、流通科学大学の白鳥和生教授。

子どもの頃はグミを食べたことがなく、ガムやあめで育った世代の著者。いつの間にか仕事のお供にグミを食べていることが多くなったことで興味を持ち、グミの歴史をひもとくとともに、なぜ今グミが売れているのか取材をはじめた。

著書『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)から、コロナ禍にグミ市場がガム市場を逆転した背景について一部抜粋・再編集して紹介する。

2021年にグミ市場が逆転

2023年は、菓子業界にとってエポックメイクな年になった。

明治が2023年3月末にガム市場からの撤退を表明したからだ。口寂しいときに食べたくなるお菓子の代表格、ガムとグミ。

コロナ禍前の市場規模は、ガムがグミを大きく上回っていたが、2021年に逆転した。

ガムが先細りするなか、グミ市場は快進撃を続けている。

明治がガムの主力ブランド「キシリッシュ(XYLISH)」シリーズと「プチガム」の販売を2023年3月末で終了した。

ガムの主力ブランドの販売を終了した菓子メーカーも(画像:イメージ)
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「社会環境の変化により、ガムの価値と消費者のニーズとのギャップが大きくなった」(明治)というのが理由。

同社はキシリトール配合商品の老舗格だったが、ロッテの主力商品「キシリトールガム」が強い市場で埋没。また、ガム市場が長期低落傾向にあることがこの決断につながった。

キシリッシュは、虫歯予防に効果があるとされる「キシリトール」を日本で初めて配合した商品として話題と人気を集めた。

発売20周年を迎えた2017年には、「イキがいいのだ」キャンペーンと題してロックバンド「キュウソネコカミ」にコラボレーション楽曲を依頼するなどして盛り上げた。

ただ、25周年を迎えた2022年は特段のキャンペーンをすることはなく、翌2023年3月で販売を終了した。売り上げのピークは2007年だった。

一方で、明治はキシリッシュのブランド名をグミに転用し、「キシリッシュグミ」を2023年4月に発売した。

グミ市場がガム市場を5年で逆転

東京都内のとあるコンビニエンスストア。

棚で最も目立つ目線の位置にはグミ、その下にはタブレット(錠菓)がずらり。ガムは最下段にある。

調査会社インテージ提供の市場規模データによると、2017年のチューインガム市場は823億円、グミ市場は555億円と約270億円の差があったが、ガム市場は2018年767億円、2019年741億円、2020年612億円と縮小の一途。

一方のグミは2018年606億円、2019年619億円と拡大し、新型コロナウイルス感染拡大初年の2020年こそ569億円と前年割れしたものの、2021年は635億円と拡大し、同年593億円に縮小したガムを逆転した。

2022年のグミは前年比23%増の781億円と躍進し、548億円のガムに約230億円超の差をつけてリードした。

口寂しいときのお供がグミに(画像:イメージ)

わずか5年で、市場規模が逆転して立ち位置が入れ替わった格好だ。何か口寂しいときのお供だったガムは、そのポジションをグミに取って代わられた。

実際、ジェイ・エム・アール生活総合研究所(JMR生活総合研究所)の消費者調査(2023年5月、20~69歳の男女971人)によると、ガムとグミについて、1年前と比較して食べる頻度の増えた割合はグミが高く、ガムを4%ほど上回った。

チューインガム市場はロッテの独壇場とも言える市場だ。

シェアの伸び悩み以上に、明治のガム市場撤退へ踏み切る要因になったのが、ガム市場そのものの退潮だ。

一方のグミ市場は、ロッテのガムのようなガリバー的な存在はなく、「果汁グミ」シリーズを販売する明治が販売金額シェア18.8%でトップ(2022年)。これにカンロ、UHA味覚糖などが続く。

ガム市場から顧客を奪っているわけではない

もうひとつ興味深いデータがある。

グミはガムの市場から顧客を奪っているわけではないということを、セブン-イレブン・ジャパンが分析している。

同社によると、錠菓も含めたガムなどの口中清涼菓子のほかに、キャンディー、チョコレートからも顧客がグミへ流入しているという。

ガム以外にも競合商品からグミ市場へ流入している(『グミがわかればヒットの法則がわかる』より)

特に2022年は、小袋タイプのチョコレート菓子(ポケチョコ)から16億円がグミに流れた。

さらに、グミを売り場で見つけて気になって買ったトライアルユーザーが、好きな商品を見つけてリピーターになっていったことで市場が拡大したという。

また、JMR生活総合研究所の調査によると、ガムを食べる頻度が減った人のうち、グミを食べる頻度を増やしている人は25%だった。

マスクを外すようになったことでガムの需要も戻りつつある(画像:イメージ)

同研究所では「ガムからグミに需要がシフトしたといった代替関係に両者はない。グミとガムの特徴や食べている人の背景は異なり、グミには話題性や嗜好性、ガムには機能性がある。人々の関心も高いことから、どちらにも今後の成長の余地はある」と見る。

ちなみに、ガムの市場は、喫食シーン減少で前年割れが続いていたが、マスクを外す人が増えたことで、需要が戻りつつある。

市場をリードするロッテが、菅野美穂さんを起用したテレビCMを投下したことや、人気アーティストのBTSを起用したプロモーションを実施したことで市場は活性化してきた。

「グミは伸びる余地がある」

グミは商品数が増えていることも、消費者へのアピールにつながっている。

都内にある食品スーパーのバイヤーは「SKU(商品の最小管理単位)は拡大傾向にあり、今後も成長するカテゴリーと判断している」と話す。

また、大手コンビニエンスストアの担当者は「店のレイアウト変更のたびに、グミは売り場を広げている。ガムは逆に、これ以上減らせないぐらいのところまで、売り場面積を減らしてきた。ガムは右肩下がり、グミは右肩上がりの構図は、コロナ禍で決定的になった」と見る。

また、カンロの村田哲也社長は「グミの購入率は、10年間で6ポイント程度しか伸びず、現在4割台。逆に飴の購入率は少し落ちているものの6割台。10代は、飴よりもグミを購入する傾向にあるが、10代以外の世代は飴を買う傾向にあり、グミはまだまだ伸びる余地がある」と見ている(2023年7月27日の中間決算発表会での発言)。

グミとガムを比較する場合、「ゴミ」との関係も無視できない。

ガムが支持されてきたのは、かむと気分のリフレッシュや眠気覚まし、歯の健康への配慮といった便益があったためだ。だが、最近はガムのデメリットが目立つようになってきた。

口からガムを吐き出すことに対するネガティブなイメージや、ガムのゴミを処理する煩わしさが増大したのだ。

次の記事では、人口が減少する中でもなぜグミが成長を続けているのかを迫る。

『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

白鳥和生
1990年に日本経済新聞社に入社。『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任し、2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。その一方で、国学院大学経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。2024年4月に流通科学大学商学部経営学科教授に着任する

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