JR東京駅を出発する山形新幹線の新車E8系(3月16日午前)=共同

JRグループの2024年(令和6年)3月16日のダイヤ改正に伴い、注目の新車が各地に登場した。そのうちのひとつがJR東日本が山形新幹線「つばさ」用に投入したE8系新幹線電車だ。これまで用いられていたE3系は10年(平成22年)までに製造されていて置き換えが迫り、新車の登場が待たれていた。

山形新幹線の新車E8系デビューを記念し、JR山形駅でテープカットする山形県の吉村美栄子知事(左から3人目)ら(3月16日午前)=共同

E8系はフル規格の新幹線である東北新幹線とミニ新幹線と呼ばれる山形新幹線とを直通可能な車両である。E3系と同様、正式には在来線の奥羽線区間(福島―新庄間)も走るため、やや小ぶりだ。

山形にちなんだ車体の色彩

車体は基本的にE3系と同じ色が塗られている。蔵王の雪をイメージした「蔵王ビアンコ」という白色をベースに、車体の上側は山形県の鳥・オシドリの飾り羽を表した「おしどりパープル」に塗られ、両者の間には県の花であるベニバナから取られた「紅花イエロー」の帯が描かれた。

車体はベースとなる白色の「蔵王ビアンコ」、黄色の帯の「紅花イエロー」、紫色の「おしどりパープル」の3色に塗り分けられた。フル規格新幹線の駅にE8系が停車すると車体とホームとの間にすき間が生じるため、乗降口に自動的にステップが現れる(郡山駅にて2024年3月8日に筆者撮影)

E8系最大の特徴はフル規格新幹線区間での最高速度が時速300キロメートルと、E3系(時速275キロメートル)よりも速く走行できる点だ。おかげで東北新幹線内では従来より4分のスピードアップが実現し、東京―山形間は最速2時間22分、東京―新庄間は3時間7分で結ばれることとなった。

利用者にとってわずか4分のスピードアップではありがたみが薄いが、JR東日本にとっては有益だ。多数の列車が最高速度時速320キロメートルで走り回る東北新幹線では速度の遅い車両は何かと問題が出る。駅と駅との間の距離が長い新幹線ではスピードの速い車両が後から追い付いても、次の駅まで距離があるために進路を譲ることがなかなかできないからだ。

秋田新幹線のE6系を投入しなかったのは…

とはいえ、それならばわざわざE8系を開発する必要はない。山形新幹線と同じくミニ新幹線の秋田新幹線「こまち」にはE6系が投入されており、最高速度は時速320キロメートルとE8系よりさらに速い。E6系の車体の寸法はE8系とほぼ同じなので、山形新幹線内をもちろん走行できる。

JR東日本のE6系は秋田新幹線の「こまち」を中心に使用されている。宇都宮―盛岡間では最高速度時速320キロメートルで走行するため、流線形状の先頭部分は13メートルとE8系よりも4メートル長い(東京駅にて2022年11月14日に筆者撮影)

ただE6系を投入するとなると、ネックになるのが7両編成で普通車308人、グリーン車22人の計330人という定員だ。同じく7両編成のE3系の定員は普通車371人、グリーン車23人の計394人。E6系はE3系と比べて64人少ない。単純にE6系に置き換えても、利用ニーズをまかなうのは難しいだろう。

ホームの長さ、線路の改良…

かといって7両編成のE6系を8両編成やそれ以上に増やすのは東京―福島間で「やまびこ」と連結して走ると考えると、ホームの長さが足りなくなる。

E6系にして列車の本数を大幅に増やすことも難しい。福島駅ではつばさ向けに用意された線路が1線しかなく、上下列車の行き違いができない。山形新幹線内にも単線区間が多い。多客期には利用者の動向を見て、下りまたは上りだけを増発してやりくりしているものの、上下ともまんべんなく増やすには線路の改良が必要となる。

そもそもE6系の定員が少ないのは、時速320キロメートルでトンネルに進入した際の衝撃音を減らす目的で、流線形状の先頭部分に長さ13メートルも費やしたからだ。E3系の先頭部分は6メートルなので、その分を客室にできる。

E3系では他の列車の足を引っ張り、E6系では輸送力が足りない――。そこでJR東日本は最高速度時速300キロメートルで走行可能な車両の開発に取り組んだ。この速度であれば、流線形状先頭部分の長さを9メートルに抑えられる。こうして誕生したのがE8系だ。定員は普通車326人、グリーン車26人の計352人。E3系より42人減ったが、E6系よりは22人多い。

山形新幹線にデビューしたE8系は7両編成を組み、東京駅寄りの11号車がグリーン車、12号車から17号車までが普通車となっている。客室はカラフルで明るい。ただ車体が狭く、グリーン車、普通車とも通路をはさんで2人がけのいすが並ぶつくりなので、広く見えるようにするため、デザインには苦心したようだ。

車内のデザインにも工夫

グリーン車のいすは針葉樹林が広がる山形県中央部の月山の緑色と山形県内を流れる最上川の水面のゆらぎとを組み合わせたデザインだという。一方、普通車のいすは背もたれ上部が黄色で下にいくにつれて徐々に赤みを増し、座面は赤一色と鮮やかだ。ベニバナから紅が抽出される過程を表現したのだという。こうした色やデザインの狙いは乗客にもっと伝わるように発信してほしいところだ。

グリーン車のいすは月山の緑色を基調とし、最上川の水面のゆらぎを表した模様があしらわれている(郡山駅にて2024年3月8日に筆者撮影)

新機軸が多いのは普通車だ。普通車ではすべての座席にコンセントが用意された。コンセントはひじ掛けの根もとにあり、E8系独特の位置なので慣れないとわかりづらいかもしれない。それにACアダプターの種類によっては座面にはみ出しそうだ。そうはいっても各自にコンセントが用意されたのはありがたい。

黄色から赤色へと変化する様子が鮮やかに描かれた普通車のいす。コンセントが両端のひじ掛けの根もとに見える(郡山駅にて2024年3月8日に筆者撮影)

荷物棚の真上となる天井には鏡が取り付けられた。利用者にとっては荷物がどこにあるかわかりやすいし、車内の整備を担当する側も忘れ物がないかどうかすぐにわかってよい。

荷物棚の真上の天井には鏡が付けられていて、写真のように載せた物が見えるようになっている(郡山駅にて2024年3月8日に筆者撮影)

トイレは12、14、15、16の各号車に設けられ、12号車にはハンドル形電動車いす対応の大型トイレもある。一部のトイレは停電した際にも使用できるようバッテリーでも動く。JR東日本によると、12、16号車のトイレが停電時に使用できるのだという。

E8系はE3系と比べると大幅にグレードアップされた車両で、同じ運賃、料金なのでできればE8系に乗りたいところだ。そのE8系はいまのところ1日3往復のつばさに使用されていて、26年(令和8年)春にはすべてのつばさがE8系に置き換えられるという。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

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