学校(写真はイメージ)=ゲッティ

 東海大付属福岡高(福岡県宗像市)で、剣道部顧問が体罰を理由に2017年に学校法人から出勤停止1カ月の懲戒処分を受けたにもかかわらず、学校が県高校体育連盟(県高体連)に必要な報告をしていなかったことが毎日新聞の取材で判明した。体罰で処分された指導者について、全国高体連は高体連主催の大会への出場を1年間認めていないが、未報告だったこの顧問には適用されていなかった。

 同校剣道部を巡っては、同部員だった2年生の侑大(ゆうだい)さん(当時17歳、名字は非公表)がいじめ被害を訴える遺書を残して21年3月に自殺した。

 学校が設置した第三者調査委員会でまとめた24年2月公表の報告書によると、侑大さんが上級生から受けた10件の被害をいじめと認定。自殺の直接的な原因は特定できないとしたが、被害後に部の寮を出た侑大さんが再入寮を希望した際に顧問から拒否されたことなどが「自殺の一因となった可能性」があるとした。

 報告書は、顧問が17年12月、部員の頭をハンガーでたたいたり、拳で顔を殴ったりするなどの体罰をしたとして、学校法人から出勤停止1カ月の懲戒処分を受けていたことを明らかにし、顧問の指導方針を「旧態依然とした独善的なもの」と指摘している。

 指導者の体罰について、全国高体連は、12年の大阪市立(現府立)桜宮高バスケットボール部の主将の自殺などを受けて「体罰根絶全国共通ルール」を14年7月から施行。原則として体罰に対して学校の処分などが確定後1年間、高体連主催の大会に出場できないとしている。

 県高体連はこのルールを16年12月や17年6月に学校長宛てに通知し、体罰事案が発生した時に速やかに報告するよう求めていた。だが、県高体連によると、この剣道部顧問に関する報告の記録はなく、ルールは適用されていなかった。

 毎日新聞の取材に同校は未報告を認め「ルールを知らなかった」と理由を説明した。

 県高体連は24年3月に同校に説明を求め、同月下旬に同校から報告書を受け取り、全国高体連にも報告した。学校によると、4月8日付で県高体連からこの顧問を約1年間出場停止とする連絡を受けた。

 一方、学校法人は第三者委の報告書を公表後の2月21日以降、顧問を一切の業務から外し、法人で新たに懲戒処分をするかどうかは「検討中」としている。

 過去の体罰が県高体連に報告されていなかったことを受け、侑大さんの遺族は毎日新聞の取材に代理人弁護士を通じて回答し、「顧問は学校の第三者委のヒアリングで『体罰がゼロは無理だと思う』と発言していた。体罰を根絶するという全国高体連の指針にも真っ向から反している」と批判した。

 その上で「17年12月の体罰が明らかになったときに、学校が全国高体連の指針にのっとり対応していれば、顧問の認識も変わっていたと思う。そうしたら、侑大への対応も変わっていたはずで、死に追いやられることはなかった。改めて、学校の対応が正しければ、侑大の命は救われたはずだと確信した。救ってあげられなくて、ごめんね、侑大」とコメントした。

 侑大さんの自殺を巡っては、県が再調査を進めている。【宗岡敬介】

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