両親や兄、姉が黄泉の国へ旅立ったのは90歳前後だった。残った私は来月には81歳を迎え、人生の最終章にさしかかる。この本は数年前のエッセー集だが「90歳」というタイトルが目に入り、人生の先輩に学ぼうと思った。

孔子も80歳以後の生き方を提起しておらず、まごついていると書いた童門さん。起承転結の結がなく、「起承転々」「転がりっぱなし」で「悟り切れない」という開き直りがいい。だが「呻きの中にも喜びあり」が実感という。背筋をピンと保って生きる気概はさすがだ。

童門さんといえば講演の名人だが講演は「健康法の一つ」らしい。人前で「恥をかくまいとする努力が血流をよくする」という日野原重明さんの言葉を金科玉条にしてきたそうだ。

「校閲さんにサムライを見る」という一文もいい。校閲さんの指摘に屈辱から「まずカッとなった」頃から齢を重ね、今は「指摘を楽しみにする。そして学ぶ」姿勢になったという。校閲さんに「孤高の剣客」の同志的連帯を感じるそうだ。

そして「風度百様」の一文。「風度」という耳慣れない言葉に目が留まった。政治の場面ではよく「由らしむべし、知らしむべからず」という論語の言葉が引用され、非民主性が問われてきたが、その真意は「趣旨を全員に理解させることは難しい」なのだという解釈に共感するという。だからこそ「懇切丁寧な説明」が必要だが、ここで伝え手の人格や力量の「風度」が大事だと童門さんは書いている。

思えば自民党の不記載問題。政倫審をはじめ数々の説明や釈明も納得できた人は少ないだろう。政治家の風度が低いように思う。政治不信がますます募る現状を立て直すには。童門さんにうかがってみたくなった。

奈良県宇陀市 渡辺勇三(80)

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