地図情報などを提供する会社・ゼンリンが発信した「糸魚川市に“糸魚川”はない…」との投稿がSNSで話題となっている。新潟県糸魚川市の市民にとっては身近すぎて考えてもみなかった、その真相を取材した。

「川があるかと…」地理に詳しいはずの会社も驚きの事実

【ゼンリン(Xの投稿)】
「最近聞いてわりとびっくりしたこと…新潟県糸魚川市に糸魚川という川はありません」

ゼンリンによるXの投稿
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2024年9月、X(旧ツイッター)に投稿されたこの文は、地図情報などを提供する会社・ゼンリンが発信したものだ。

地理に詳しい会社の「糸魚川が流れているものだとずっと思っていた」というつぶやきに「な、なんだってー!?」「糸魚川が存在しないなんて…」などと驚きの声が多く寄せられ、10月11日までに2万件以上の“いいね”がついた。

どこにもない“糸魚川"…「考えたこともなかった」

“糸魚川”が存在しないという事実を探るため、取材班は糸魚川市へ。

市中央に流れるのは姫川 “糸魚川”は見つからず…

まず、市民に話を聞いてみると、「ああ、ないね」「当たり前。ここに嫁に来たときから考えたことないね。糸魚川って読みづらいから、それはあったんだけど」「私も学生時代とかによく、『糸魚川に糸魚川っていう川があるんだよね?』と聞かれた」との声が聞かれた。

むしろ「こんなことが話題になるとは」と驚いた様子だ。

次に本当に存在しないのか、糸魚川市の地図を広げてみた。探してみると、“姫川”・“能生川”などはあるが、“糸魚川”という川は見当たらない。また、街の名前で探してみても“糸魚川”はない。

結果、“糸魚川”の文字はどこにも見つからなかった。

史料でもまさかの「起源不明」!?市によると諸説は5つ

なぜ、このような名前になったのか、謎が深まるばかりの糸魚川…さらに真相を調べるため、取材班は糸魚川市役所を訪ねた。

「(投稿は)職場の中でも話題にはなっていた」と、反響の大きさに驚くのは、糸魚川市文化振興課の学芸員・小池悠介さんだ。

糸魚川市文化振興課・学芸員 小池悠介さん

すると、小池さんが見せてくれたのは、現在の糸魚川市周辺の歴史がまとめられた“西頸城郡誌”という史料。

70年以上前の「糸魚川町」時代の記録を見てみると、なんと“糸魚川”という名称について、“起源不明”とする文が記されていた。

西頸城郡誌

それでも様々な史料を読み解くと、起源には諸説あると小池さんは言う。

市が紹介しているのは、以下の5つだ。

▼諸説1
弘法大師(空海)が竹管に糸を巻いて川に投じたところ、たちまち魚となって泳ぎまわった。

▼諸説2
対立する軍(どのような軍かは不明)がこの地で挑みあったので「いどみ川」から転じて「いといがわ」となった。

▼諸説3
淀(よどみ)川から転化して「いといがわ」となった。その他、災害がよく起こるので「厭(いとい)川」から転化した。

▼諸説4
イトヨ(糸魚)が市内の河川に多く住んでいたことからついた。

▼諸説5
古代、新羅人が日本に渡り帰化人となり、糸井と名乗り、この地に住み着いたことからついた。

有力なのは“イトヨ(糸魚)”説?身近な存在と示すものも

5つの説の中でも、小池さんは「よく聞くのは『イトヨが住んでいる』というところからの“糸魚川”。市が説明するときにも使う」と話す。

かつて糸魚川地域にいたイトヨ(糸魚)

“糸の魚”と書く川魚、イトヨ(糸魚)。市によると、イトヨはかつて糸魚川地域に多くいたというが、昭和40年代前後から河川の汚染などにより、現在は全くと言っていいほど見られなくなったという。

このイトヨが身近であったことを示すのが、糸魚川市の旧市章だ。1921年頃に考案され(当時は町章)、2005年のいわゆる“平成の大合併”で現在の市章に変わるまで使われた旧市章は、イトヨをモチーフとして作られている。

糸魚川市の旧市章

また、糸魚川駅前の商店街には、「いとよ広場」と名付けられた小さな広場もある。

イトヨが、この地域の人にとって特別な存在であることがうかがえる。

起源の真相はいかに…市民「謎な糸魚川のままでいいのでは」

結局のところ、真相は不明な“糸魚川”の由来。一方、市民からは「謎な糸魚川のままでいいのではないか」との声もあがる。

“糸魚川”はないが自然豊かな糸魚川市

糸魚川市文化振興課の小池さんは、「糸魚川を知らない方も多くいるかと思う。今回話題になったところで糸魚川を知っていただいて、来ていただけるとうれしい」と話した。

関川村にも“関川”はない

一方、新潟県内には関川村もあるが、実はこちらも村内に“関川”という川はない。村によると、1954年に当時の“関谷村”と“女川村”が合併し、それぞれの名前を取って“関川村”となったとのこと。一方、上越地域に“関川”という川があることから、川を目指した人がたまに間違えて村に来てしまうという…。

身近な地名も、由来を調べてみると新たな発見があるかもしれない。

(NST新潟総合テレビ)

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