海藻が減少、消失して焼け野原のようになる「磯焼け」。温暖化や食害が原因で、日本沿岸だけでなく世界の海で拡大しており、漁業に大きな打撃を与える。立命館大グローバル・イノベーション研究機構の光斎(こうさい)翔貴准教授は、海藻を食い荒らす「食害魚」の有効活用に着目。独特の臭いなどから食卓で敬遠されてきた魚をドッグフードに加工、商品化することで、環境問題解決と地域の新しいビジネス創出に取り組んでいる。
開発したドッグフードは「Ocean harvest(オーシャンハーベスト)」。食害魚のイスズミやアイゴといった魚を加工したものだ。磯臭さや下処理の難しさから商品価値は低いが繁殖力は強いという。光斎氏は「磯焼け対策は地元有志のボランティアに依存している部分が多い」と話す。
こうした食害魚の有効活用を模索する中で浮上したのが、ドッグフードへの加工だった。イスズミやアイゴには食用にされる白身魚と同程度の栄養が確認されているといい、高たんぱくで低カロリー。ビタミンなどの栄養素も加えて、イヌの総合栄養食に仕上げた。協力が得られた100匹以上の飼いイヌの「食いつき状況」調査では、90%以上が普段通りか、普段以上に食いつきがよかったという。
長崎・五島列島にある新上五島町で取れたイスズミなどを使い、周辺の藻場を調査地に設定して再生状況を継続調査。食害魚をどれほど減らせば効果があるかを検証し、全国展開できるモデル形成を目指すという。
ドッグフードはECサイトで9月から販売予定で、定価は500グラム3500円(税込み)。事業運営のためのクラウドファンディング(目標額150万円)も5月19日まで実施中だ。光斎氏は「磯焼けで魚や貝の漁獲量が減少すれば、われわれの食卓にも大きく影響する。藻場が発育できる環境をつくっていきたい」と話している。
「海の砂漠化」海水温上昇も要因
「海の砂漠化」とも呼ばれる磯焼けは、全国で確認されている。藻場は貝や魚の成育に不可欠なうえ、近年は二酸化炭素を吸収する「ブルーカーボン」としても重要視されている。地球温暖化との関連も指摘されており、各自治体や地元漁師らが対応に追われている。
水産庁が令和2年に海岸のある39都道府県を対象に実施したアンケートでは、31の都道府県が約10年前と比較して「藻場の衰退が認められる」と回答。アワビやサザエといった磯根(いそね)資源が減少したとする自治体も少なくない。
藻場衰退の主な要因として挙げられるのが、ウニやイスズミなどによる食害と、海水温の上昇の2つだ。沖縄など南方に生息していたアイゴは、海水温の上昇などに伴って東北でも確認されるようになっている。
対策も広がる。代表例がウニの除去活動だが、陸上養殖したウニをブランド化し、販売した利益で捕獲費用を捻出する取り組みも。低利用魚をスープに加工販売したり、養殖する過程で臭いを抑えて商品化したりする動きもある。(堀口明里)
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