高校で資産形成の授業が必修となり、お金に関する学びに関心が高まるなか、伊予銀行(松山市)がユニークな金融教育に取り組んでいる。3月に開催したセミナーでは、小学生がオリジナル弁当作りを通してお金の流れや原価率などを学んだ。同行は平成19年から地元企業とコラボしたり、独自開発のボードゲームを取り入れるなど多種多様な金融教育活動を展開。担当者は「お金は生活していく中で必ず必要なもの。正しい知識と扱い方を楽しく身に着ける機会を作っていきたい」と話す。
モノとお金の流れを体感
「白身魚フライおいしそう」「原価率40%は高すぎない?」
伊予銀行本店の研修室で小学新5、6年生を対象に開かれたキッズセミナー。参加した小学生ら約30人は、弁当のおかずとその原価が書かれたメニュー表を手に、オリジナル弁当の献立を話し合った。
セミナーでは講師役の行員が、野菜を作る農家、弁当を作る業者、その従業員、顧客-と、弁当の製造から販売までのモノとお金の流れを説明。材料費や光熱費、人件費などを考慮し、原価率を意識して販売価格を決めることなどを伝えた。弁当業者は献立の考え方や衛生管理の重要性に加え「どんな人に売るのかを想像してメニューを考えてください」と呼び掛けた。
児童らはグループに分かれてオリジナル弁当を考案。それぞれネーミングや献立、価格、原価率を決め、発表した。弁当は4月13日に同行ソフトボール部の試合会場で実際に販売されるという。
参加した立花優奈さん(10)は「原価から販売価格を決めるのが難しかったけど、楽しかった」と笑顔。配達弁当や給食事業を手掛けるナカフードサービスの中篤史社長は「お金の話はタブー視されがちだが本来大事なこと。私たちの仕事が教材になってよかった」と話した。
注目される金融教育
同行では、CSR(企業の社会的責任)の一環として、平成19年から金融教育を展開。昨年末までに地元企業と連携したキッズセミナーや銀行での職場体験学習を約750回行ったほか、小中学校などに出向いての出前授業を約170回実施するなどし、延べ2万1千人以上が金融教育を受けた。
同行広報CSR室の担当者は「近年は特に参加希望も多く、学校や企業から依頼を受けることも増えてきた」と話す。
背景にあるのは、金融教育への関心の高まりだ。
令和4年4月に成年年齢が18歳に引き下げられたことで、高校在学中でも親の同意なく金融商品の購入やクレジットカードの作成など金融に関する契約が可能に。同年改訂された高校の学習指導要領では金融商品の特徴や資産形成にも触れることが求められた。
一方で、金融教育は経済や家計管理、契約、生活設計、資産形成など分野が多岐にわたり、教科横断的な学びが必要だ。そのため、金融庁は高校向けの教育指導教材をホームページで公開、日本銀行などでつくる金融広報中央委員会は年齢層別に身につけるべき金融知識を記した「金融リテラシー・マップ」を公表し活用を呼び掛けるなど官民あげた取り組みが進められている。
本作りやボードゲーム
伊予銀行の金融教育でも、学校や団体などからの要望を金融リテラシー・マップと照らし合わせて内容を組み立てているという。そのうえで同行で金融教育を担当する長岡美佐さんは「幅広い金融の知識を楽しく身に着けるためには、さまざまな工夫が欠かせない」と強調する。
実際に同行のキッズセミナーでは、印刷、出版、書店の各社と連携した「本作り」や、同県八幡浜市とフェリー会社の協力を得た「観光ツアー作り」など地元企業らとコラボした企画を実施。
職場見学を通して銀行業務を学ぶセミナーでは、借入や預金などを学ぶ独自開発のボードゲームを活用しており、今年4月には同行と阿波銀行(徳島)、百十四銀行(香川)、四国銀行(高知)の4地銀で連携して各地の地場産業や特産品の特色を盛り込む内容にリニューアルした。
また、証券会社などとコラボし、高校でローンや契約に関する出前講座を行ったこともあるという。いずれも参加者からは好評で、協力した企業からも「子供たちに仕事を知ってもらうきっかけになった」と喜ばれるという。
広報CSR室は「お金に関する学びに加え、地元企業を知ってもらうことにもつながる金融教育は地域経済の発展を目指す地方銀行だからこそできる社会貢献。これからも力を入れていきたい」としている。(前川康二)
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