地割れに巻き込まれた倉庫などを案内する干物店「南谷良枝商店」の南谷さん(2日、石川県輪島市)=共同

製造技術が国の登録無形民俗文化財で「日本三大魚醬(ぎょしょう)」に数えられる能登の「いしる」が岐路に立たされている。生産者は高齢化し、製造を断念する業者も相次ぐなか、能登半島地震が追い打ちをかけた。石川県輪島市の干物店「南谷良枝商店」は熟成中だった大半と輪島朝市の露店を失った。「朝市の仲間といしる造りを再開したい」。共感した若者を巻き込み、地域最年少で家業を手伝う南谷美有さん(22)が資金集めに奔走する。

高校3年時、朝市で職業体験をした。下宿先から実家に戻る口実だったが、いしるを使った水産加工品の魅力を伝える母に憧れ、20歳で店を手伝うようになった。

同店のいしるはイワシやサバを塩で漬け込み熟成、干物や塩辛などの加工品に活用される。通常より長い期間「3〜5年」との曽祖母の教えを固く守り、深いコクを出す。時間も手間もかかるが、「ナンプラーよりおいしい」と胸を張る。

元日、いしる造りの"天敵"の地震が襲った。製造の過程でたるが大きく揺れると売り物にならなくなる。加工場では、熟成用たる約7トン分が転倒し、残ったのはわずか約30リットルだった。

地震で転倒した「いしる」の熟成用たる(石川県輪島市)=南谷さん提供・共同

工場は傾き、たるを保管していた倉庫は地割れに巻き込まれ「もうこの場所で造れない」と悟った。それでも、朝市で共に働いた「おばちゃんたち」ともう一度いしる造りをしたいと再開に向け動き出した。

2月、営業再開のため資金5千万円を募るクラウドファンディング(CF)を開始、不慣れな作業に苦戦したが、CFの経験がある大阪府の大学4年、山内ゆなさん(21)と北海道の大学4年、北村悠葵さん(21)を知人に紹介された。2人は「社会から受けた恩は次困った人に送りたい」と協力し、これまでに計約900万円が集まった。

寄付の返礼品として贈るいしるは長い熟成を待たなければ手元に届かないが、支援者からは「焦らなくていい」「いつまでも待っている」と温かいメッセージも寄せられる。「地震で失うものは多かったが、CFを通して得られたものは多かった」と南谷さん。

能登6市町の生産者でつくる「能登いしり・いしる生産者協議会」によると、廃業や生産取りやめで加入事業者は7年で14から11に減少した。高齢化で製法の継承も課題となるなか、南谷さんはSNSも活用し、魅力を発信する。「最年少だからこそ、受け継がれてきた伝統的な味と文化を守り続けて次世代につなぎたい」と誓っている。〔共同〕

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