「むかいパーク」のフジバカマに飛来したアサギマダラ=愛媛県伊方町提供
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 愛媛県伊方町は、旅するチョウ「アサギマダラ」が飛来することで知られる。町はアサギマダラが好むフジバカマを町有地などに植栽するなど観光資源化に取り組んでいる。このアサギマダラを、県総合科学博物館(新居浜市)の50代男性学芸員が博物館のイベント用に町営施設で無断で採集。上司から返すよう指示されたことに立腹して飲酒運転し、物損事故を起こす事案があった。地元関係者は「採集を禁止する法律はないが、町の大切な資源なので無断で採集するのはあり得ない」と憤る。

 伊方町は2018年から愛媛大と協力し、町営観光施設「むかいパーク」などで、町内各地に自生しているフジバカマの植栽作業を開始。町によると、秋の飛来シーズンには1日で100匹前後のアサギマダラが飛来することもあり、美しい姿を一目見ようと、町内外の観光客が現地を訪れるという。

 県や町によると、学芸員は10月18日午前に自家用車で同パークを訪れ、アサギマダラを採集。その様子を目撃した地元関係者によると、学芸員は大きな捕獲網を持参し、アサギマダラを車内の捕獲器に次々に入れていたという。「採らないで」と注意すると、学芸員は2日後に博物館である子どもらが対象のイベントで必要だと説明。「アサギマダラが足らない。ノルマがある」などと釈明し、すぐに車で立ち去った。

 採集数は数十匹ほどと推測され、地元関係者は「午前中はたくさん飛来していたのに、午後になると少なくなっていた」と憤る。学芸員は注意を受けて採集はやめたものの、既に採集した分は持ち帰った。この関係者は午後1時ごろ、博物館に採集した分を返すよう求める電話を入れた。午後2時ごろ、学芸員の上司が電話で指示し、学芸員は同パークに引き返して採集したアサギマダラを放した。

 その帰り道、学芸員はコンビニエンスストアで缶入りハイボール(500ミリリットル)2本を購入し飲酒。午後7時ごろ、松山自動車道のサービスエリアで停車中の車に接触する事故を起こした。博物館によると、飲酒理由について学芸員は「返すように言われたことに腹が立った」と説明したという。

 学芸員は勤続約30年で、今回のようなトラブルは初めてだという。町に無断で採集した理由について博物館は「調査中」としている。池野光則館長は、毎日新聞の取材に「イベントで使うアサギマダラを取りに行ったことは事実」としながらも、ノルマについては否定。町や住民に対しては「申し訳なかった。今後はこのようなことがないよう事前に連絡して協力を求めたい」と語った。

 町の担当者も「せめて事前に報告してほしかった」と話す。今後、同パークに看板を設置するなどして無断で採集しないように注意喚起することも検討している。県は今後、学芸員を処分する方針だ。

 今回の事案について「兵庫県立人と自然の博物館」(三田市)の学芸員は「資料収集は博物館の重要な業務だが、採集先の事情や土地所有権の問題もある。採集前に入念に下調べし、許可を取ることなどが必要だ」と話している。【広瀬晃子】

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