普通充電器の前でエネチェンジ社の丸岡智也代表取締役CEOと握手する後藤田正純・徳島県知事=同県板野町のあすたむらんど徳島で2024年12月17日午後2時33分、植松晃一撮影

 今までお金を払っていたものが「0円」で済むなら、ありがたい話だ。まして、少額とは言え、お金を受け取る側に逆転するなら、なおのこと。徳島県が全国でも最下位水準に低迷するものを急速に普及させるべく、民間で広がりつつあるビジネスモデルの活用に踏み切った。先行する都道府県に追いつき、追い越せるか、期待と注目を集めている。

「目的地充電」狙い

 同県板野町で子ども科学館や芝生公園などを備えた県立施設「あすたむらんど徳島」。その一角にある駐車場に電気自動車(EV)など向けの充電設備(インフラ)10口が完成し、17日、後藤田正純知事らに披露された。整備したのは、全国で5346口(6日現在)の充電インフラを展開するエネルギー企業「エネチェンジ」(東京都、丸岡智也代表取締役CEO)だ。同社は同日、「あすたむらんど徳島」など県施設9カ所に計42口の設備を完成させた。

ゼロ円モデルで設置された普通充電器。1基に2口付いており、同時に2台へ充電できる=徳島県板野町のあすたむらんど徳島で2024年12月17日午後2時58分、植松晃一撮影

 施設を訪れたEVドライバーは駐車場で充電を始め、施設で過ごす。帰る際には一定量、充電され、その電気を使って帰路に就く――というシナリオが狙いだ。自宅などでの「基礎充電」、高速道路サービスエリアなどでの移動途中の「経路充電」に対し、施設使用中の時間を利用する「目的地充電」と位置付けられている。商業施設にある充電インフラで買い物の時間を利用して充電するのも「目的地充電」だ。

県としては費用ゼロ

 「あすたむらんど徳島」にずらりお目見えしたのは、最大6キロワット対応の普通充電器で、1基に2口付いており、2台同時に充電できる。一般的な3キロワットの普通充電器に比べ高出力で、EV側の能力次第では充電時間が短くて済む。エネチェンジ社によると、設置にかかる費用は、工事費などを含めて1基約180万円といい、総事業費は約900万円とみられる。

 では、徳島県はそのうちどのくらいを負担したのだろうか。県立施設内での充電インフラだから、全額? 半額? 1割ぐらい?

 正解は「0円」!。なんと、タダなのだ。

初期費用も維持費用も徳島県が負担する必要のない手法で設置された普通充電器を使い、EV充電を試す後藤田正純知事(右)。左はエネチェンジ社の丸岡智也代表取締役CEO=徳島県板野町のあすたむらんど徳島で202412月17日午後2時35分、植松晃一撮影

 からくりは、充電インフラを整備したエネチェンジ社が展開する「初期費用・維持費用ゼロ円モデル」だった。充電インフラ整備を支援する国の補助金で機器費用は全額、設置工事費の半額が補助されるといい、全体費用のおおむね約8割が国費で賄われる。残る約2割は利用者が支払う料金などを充てる枠組みだ。このため、設置場所を提供する県は「初期費用・維持費用ゼロ円」となる。

歳入を生む形に

 民間の施設では急速に普及している枠組みだが、県としては画期的だ。エネチェンジ社によると、同社のゼロ円モデルを使った自治体施設への充電インフラ整備は、県レベルでは四国初であり、徳島県内の地方自治体としても第1号という。

 これまで、徳島県は自前で充電インフラを設置し、費用をかけて維持してきた。例えば、徳島市中心部にある県庁駐車場では、2014年3月に事業費約300万円を費やして急速充電器(最大50キロワット)を設置した。だが、今回は県有地に機器を設置したため、逆にエネチェンジ社から機器設置場所の使用料が県に入る。県は9カ所で年間2万円弱と試算する。つまり、従来、設置や維持に県費が投入されていたところ、少額ではあるが県へ歳入を生むこととなった。もちろん、充電できる施設として、来訪者の利便性もアップする。

 自動車メーカー各社が発行している充電カードのほか、充電分だけ支払うアプリによる決済も可能といい、最大の6キロワットで10分間充電した場合の料金は55円という。

30年度に10倍目標

 県が直近の約10年間に整備した充電器は、いずれも高価な急速充電器だったこともあり、9口に過ぎない。そして、民間施設を含めても、県内の充電インフラは11月末時点で240口(うち急速充電器は85口)にとどまる。国は23年10月、22年度時点で国内に約2万9000口あった充電インフラを30年度までに10倍の30万口にさせる方針を打ち出し、県も呼応する形で30年度に10倍の2000口(うち200は急速充電器)にする方針だ。だが、物価高騰などもあり、急速充電器1口を整備するのに今日では500万円以上必要ともされ、直営整備方式では、到底、間に合わない状況だった。

 県は25年度にも県施設へ導入すべく、別の事業者を選定しており、同様の「0円モデル」で整備を加速したい考えだ。だが、現在でも利用者が多くない「空白地域」などには、参入をためらう事業者も想定され、県は今後、事業者が商業ベースに乗りにくいなどの事情から参入をためらうような地域への整備に専念することも考えられる。

空白地域縮小に期待

 徳島県では、民間の設備を合わせても、山間部などに設備の「空白地域」があり、EVドライバーの脳裏にガス欠ならぬ「電欠」の不安もよぎる。「0円モデル」と直営整備を効率よく組み合わせる形で、先行する都道府県に追いつき、追い越し、EVドライブを安心して楽しめる徳島路を実現したいところだ。【植松晃一】

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