食料品などを巡回販売する移動スーパーが、買い物に困っている高齢者の支持を集めている。スーパーの閉店や公共交通の減便・廃止などで深刻化する「買い物難民」。対面販売の移動スーパーは、買い物難民の解消のほか、高齢者のコミュニケーションの場としての役割も期待されている。
茨城県石岡市の田園地帯。住宅が点在する、のどかな細い道を1台の移動スーパーが走る。スタッフが神社の前に車を止め、荷台の扉を開けると、肉や野菜、弁当、菓子などがぎっしり並んでいた。
高齢男性が手押し車を押してやって来る。「油揚げのおすしある?」「お稲荷(いなり)さんね。たくさん入ったのにする?」。男性の問いにスタッフが答える。息の合ったやりとりだ。
お稲荷さんやイチゴなどを買った関弘之さん(93)は、週1回の移動スーパーを心待ちにしている。最も近いスーパーまで5キロメートル以上。「来てくれて助かる」と話す。
この移動スーパーは、茨城県つくば市に本社を置くスーパー、カスミが運営する。平成25年の開始以降、台数は右肩上がりで、茨城、埼玉、千葉、栃木県で計68台(3月末時点)が稼働する。食料品や日用品など約650品目を扱い、店舗のスーパーと同じ通常価格で販売。自治体と包括連携協定を結び、高齢者の見守りや災害時の物資の供給などを行っている。
別の地区では移動スーパーに10人以上の住民が集まり、会話が弾んだ。豊崎久美子さん(61)は「近所の交流が減る中、ここに来ると顔を合わせて話せるのがうれしい」と喜ぶ。
フードスクエアカスミピアシティ石岡中央店で移動スーパーを担当する宮本祐一次長は「自分で商品を手にとって選ぶことができるというのは、とても大切なこと。定期的に対面販売するスタッフや、住民同士での交流もできる」と意義を話す。
背景には小売店の減少
移動スーパーが注目される背景はスーパーなど小売店の減少だ。帝国データバンクの調査によると、令和5年に廃業したスーパーを含む飲食料品小売業は294件で、前年より約3割増えた。担当者は「物価や光熱費などの高騰も影響している」と説明する。
結果として買い物難民が増え、農林水産政策研究所の推計によると、「店舗までの直線距離が500メートル以上」で「自動車を利用できない65歳以上」は令和2年で904万3千人に上った。集計対象が一部異なり単純比較はできないが、平成27年の約824万6千人から約1割増えた計算だ。これらの人にとって、移動スーパーは欠かせない。
自治体も移動スーパーの導入に力を入れる。福岡県では、市町村の補助を受けて参入する事業者に、150万円を上限に車両購入費などを補助している。福岡県の担当者は「移動スーパーの参入を促すことで、日常の買い物が困難な地域の住民の支援や活性化につなげたい」と話す。
孤立防ぐサービスにも力
移動スーパーの需要は地方だけではない。徳島市が本社の移動スーパー「とくし丸」は全国展開する中、東京都新宿区の高層住宅など都市部も巡回している。
平成24年に始まった「とくし丸」は当初2台で、今や1168台(2月時点)を展開する。運転手兼販売員はフランチャイズ形式の個人事業主。1台当たり約400品目を扱い、商品の代金には手数料として1品当たり主に20円が上乗せされる。同社も自治体と包括連携協定を結び、能登半島地震では救援物資を無料配布した。
広報担当の小川奈緒美さんは「都市部でも需要がある。重い荷物を持ったり、坂道や交通量の多い道路を移動したりすることに不安を感じる高齢者は少なくない」と話す。
生活のインフラとなっている移動スーパー。小川さんは「人対人のコミュニケーションをより重視し、自治体と連携した高齢者の見守り活動や孤立化を防ぐサービスにも力を入れたい」と力を込めた。(本江希望)
サービス維持 地域で考えることが必要
東京都市大学の西山敏樹准教授(都市工学)の話 移動スーパーを考える上で重要なのは、サービスをいかに維持していくかを地域で真剣に考えることだ。人件費やガソリン代などのコストも大きく、本体に体力がないと移動スーパーを続けることが難しくなる。一部で補助している自治体もあるが、さらに広げ、ほかの支援態勢も考える必要があろう。
新型コロナウイルスで本数が減った電車やバスは、「2024年問題」でさらに減便が進んでいる。一方、運転免許返納が進む高齢者のほか、車離れが進む若者も、公共交通が不便になると移動手段に困る。買い物難民は高齢者だけの問題ではなく、幅広い危機感を持つべきだ。
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