太陽光を活用し、理論的な限界よりも低い電圧で水から水素を作ることに成功したと、産業技術総合研究所(茨城県)のチームが発表した。水素は温室効果ガスを出さない次世代のクリーンエネルギーの一つで、製造の低コスト化や、低炭素社会の実現への寄与が期待される。
水素はおもに水を電気分解して作るため、電力の低減が課題だ。電気分解には最低1・23ボルトの電圧が必要で、これ以下では理論的にできないとされる。
チームは、太陽光を吸収して化学反応を起こす「光触媒」が、鉄イオンを還元する反応に着目。還元された鉄イオンが水を酸化して水素を作る反応と組み合わせ、太陽光と電気分解をハイブリッドした新しい装置を作った。
すると、電気分解に必要なエネルギーの一部を太陽光のエネルギーが補うことで、限界よりも低い0・9ボルト以下の電圧で、水素が製造できた。
チームは、酸化タングステンなどを使った高効率の光触媒も開発。シート状に加工して、通常の電気分解に使う反応膜と同じように使える。1万時間(通常の屋外太陽光照射の約7年分)以上稼働しても劣化しないことも確認できた。
ただ、酸化タングステンが反応する光は太陽光よりも波長が短く、効率が下がってしまうデメリットがある。今後、より多くの反応を起こす新たな光触媒を開発する考えだ。
チームの佐山和弘・産総研首席研究員は「触媒以外はほぼ実用化への土台ができたと考えている。少しでも安い水素が取り出せる手法を開発したい」と意気込む。
成果は10月25日付の米化学誌(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.4c12781)に掲載された。【酒造唯】
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