肝臓に脂肪がたまる脂肪肝は、不健康な食生活や運動不足により世界で増加している HORILLAZ/ISTOCK

<発症の引き金となるタンパク質を特定、新たな治療法や医薬品の開発に光が見えた>

アルコールを原因としない「非アルコール性脂肪肝」は、最も一般的な肝臓病だ。患者数は世界中で増えており、アメリカだけでも最大1億人と推定される。その名のとおり肝臓に脂肪が蓄積する病気で、老化や肥満により進行し、肝硬変や肝不全に至る場合もある。

その脂肪肝を予防する方法が見つかったかもしれない。体内の脂肪を脂肪肝の発症を引き起こす形に変換する因子をデンマークの研究チームが特定し、2023年12月に科学誌サイエンスで発表した。


「同じ代謝性疾患でも糖尿病には既に手頃で効果的な薬があるが、医学界で今なお最大級の未解決問題である脂肪肝にも光明が見えてきた」と、論文の執筆者の1人で、細胞のストレス反応を研究するコペンハーゲン大学のシモン・ベッカーイェンセン教授は声明で述べた。

老化や肥満は細胞に「ストレス」を与え、これが活性酸素と呼ばれる化学物質の過剰生産を招く。活性酸素は細胞を傷つけ、さらに「善玉」の褐色脂肪細胞を「悪玉」の白色脂肪細胞に変換して肝臓に脂肪がたまりやすくする。

なぜストレスが発生し脂肪の変化につながるのか、その化学的メカニズムはこれまで明らかになっていなかった。今回研究チームは、「ZAKアルファ」というタンパク質が引き金になっていることを突き止めた。

「細胞がストレスを受けているというシグナルを、ZAKアルファが代謝システムに送る。すると連鎖反応が起きて、脂肪肝の発症などにつながる」と、ベッカーイェンセンは解説する。

安価で手軽な薬に期待

ZAKアルファを阻止すればシグナルは送られず、脂肪肝など代謝性疾患の進行を防げるかもしれない。


研究チームはマウスとゼブラフィッシュを使って実験を行い、その体内でZAKアルファの働きを止めた。結果として「ZAKアルファを不活性化したマウスは、不活性化しなかったマウスよりもはるかに健康だった」と、ベッカーイェンセンは振り返る。「前者は年を取っても後者より活発で、筋力もあり、何よりさまざまな代謝性疾患を発症しなかった」

ベッカーイェンセンは、「人間の代謝を知る上で、マウスは非常に有効なモデルだ」と言う。「実験では高カロリーで不健康な食生活や運動不足など、現代人のライフスタイルを忠実に再現することができる。マウスも肥満になると、おおむね人間に見られるのと同じ代謝性疾患を発症する」

発見が治療法や医薬品の開発につながることを、研究チームは願っている。

「安価に製造できて経口投与が可能な小分子化合物で、ZAKアルファは阻害できる」と、ベッカーイェンセンは説明した。「脂肪肝を含む代謝性疾患の医薬品開発に取り組んでいる製薬会社が、この新たな知見に広く関心を寄せてくれるものと私たちは期待している」

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